「近代日本の装幀表現―その変遷と魅力」講演会報告
佐藤真紀
2013年12月7日、第51回明治大学中央図書館ギャラリー企画展示「本の装い百年―近代日本文学にみる装幀表現」開催記念講演会が開催された。
今回の展示の監修およびカタログの執筆をしていただいた、新渡戸文化短期大学の岩切信一郎先生を講師にお招きし、「近代日本の装幀表現―その変遷と魅力」と題してお話しいただいた。
冒頭、明治大学中央図書館事務長の伊能秀明氏より、岩切先生のご紹介をいただき、和やかなムードの中で講演が始まった。
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講演の始まりは、まず、「本とは何か?そして日本の本を考える」というテーマからであった。
本とは印刷物であり、版と紙とインクがなければ本とはならない。そして、製本・装幀とは、印刷した紙を束ねて綴じる、というところから始まるという。これらを考える時、近代だけ切り取って考える、あるいは日本だけ切り取って考える訳にはいかず、本来ならば軸物・巻物からはじめなければならないが、今回は展示のテーマに合わせ、江戸期から近代への変遷について語られた。
まず、先生が持参された実際の本で、江戸時代の草双紙と明治期、さらには現代に出版された本が同じサイズであることを示された。同様に、江戸期の読本と明治の教科書、明治期の漱石の本も同じサイズであった。
これは日本特有のことであり、紙のサイズに由来するという。紙サイズのA系列とB系列、この二つの系列があるのは、実は日本のみとのことである。B系列は日本特有のもので、和紙の全紙サイズから発生しており、江戸期の版本などさまざまな紙のサイズの基準として適用されてきた。明治になってA系列の洋紙が入ってきて以降、日本ではこの2系列を使い分けてきており、これが現代の本のサイズにも影響を与えているのだそうだ。
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次に、本における近代がどこから来たのかを考えるとき、まず挙げられることとして印刷に話が移る。
江戸期の本は片面刷りの半紙を二つ折りにしたものを一丁とし、丁付けをしてきた。それに対し、両面刷りで表裏に頁打ちをされたものが、近代の本の証であるとのことである。
明治10年頃、絵と本文を一緒に印刷するために紙型を使用して作った鉛の版によって輪転機で大量に印刷できるようになり、同時期に洋紙を日本で調達できるようになった。つまり、この頃、日本で洋装本が製作されるのに必要な条件が整ってきたと言える。
新しい本の様相は、本文が活字になるなど、内側から変化が始まっていった。初めの頃は、挿絵が木版だったり、袋綴じだったり、和洋折衷で新旧の本の形が混在している。
その後、本文が活字の両面刷りになり、挿絵が石版刷りになるなど、明治10年代の短期間で急速に内側からの本の近代化が進んだ。
造りの面からの近代化としては、明治10年~20年半ば、擬似洋装とも言われるボール表紙本がつくられた。当時の語学の教科書などに使用された体裁であり、当時の人々はこれを「洋装」と考えたが、現代の本とは同じとは言えない。ボール表紙本は近代製本への過渡期に発生した体裁だが、これまであまり注目されてはこなかったそうである。
明治6年にパターソンによって西洋製本術が伝えられ、和本の職人などが技術を学び紙装のくるみ表紙本など小型の洋装本が作られた。しかし、帳簿製本など実用的な技術が重宝されて普通の読み物の製本とは別個に発達して行き、「諸製本」と言われる特注製本は、日本では発達してこなかったと言える。当時の一般大衆向けの本では、西洋の製本術そのものよりも、西洋的な雰囲気を持つ体裁に仕上げることに重きを置かれていたと考えられる、とのことである。
その後、過去の展覧会・講演会の様子やこれまでの話の具体例となる本のスライドを見ながら、近現代の製本・装丁について説明をいただいた。
A系列とB系列の本のサイズに関する話。江戸期の書袋文化が現代の日本の本のカバーや帯の原点とも言われているという話。使用するインクが江戸期の水性インクから明治期には油性インクに代わり、安くて大量に印刷が出来るようになった話。明治後期の文芸書の主流でありステータスとされた菊判の話。そして文芸と美術の融合と考えられる木版
や石版の口絵の話など、内容は多岐に渡った。その一方で、現在の本は、日本でも世界でも背を糊付けした簡単な製本をされているのが現状という苦言も呈されていた。
中でも、「鏡花本」「漱石本」と称されて現代でも人気が高く、それぞれに本作りへのこだわりを見せた泉鏡花と夏目漱石の本のスライドの場面では、作家の文化的背景にまで踏み込んだ解説がなされ、橋口五葉の研究から近代本の装幀表現の世界に踏み込まれたという岩切先生の熱意が感じられた。
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講演会終了後は、展示会場へ移動してのギャラリートークとなった。講演会に参加されたほとんどの方が引き続き参加をして下さった。展示された本について、岩切先生からより具体的な説明がなされ、参加者からも積極的に質問が出るなど、更なる盛り上がりが見られた。
講演会からギャラリートークまで2時間以上に渡り、近代から現代に至る本について主にハード面から語っていただいた。岩切先生のウィットに富んだ親しみやすい語り口に惹きこまれ、日本の近代化のスタートの時期、明治の人々の「本とは何か」「本はどうすべきか」という課題に真剣に向き合う姿勢を感じ、そしてそれが現代にどう繋がってきたかを考えさせられる貴重な時間であった。
最後となりましたが、今回の講演会の機会を設けて下さり、設備の整った会場で滞りのない進行をして下さった明治大学図書館のスタッフの皆さまに、この場をお借りして感謝申し上げます。
展覧会は以下の日程で明治大学和泉図書館でも開催の予定です。
期間中岩切先生の講演も予定されておりますので、今回聴き逃してしまった皆さんも、ぜひご参加下さい。
「本の装い百年―近代日本文学にみる装幀表現」
期間:2014年4月1日(火)~5月9日(金)
会場:明治大学和泉図書館展示ギャラリー
東京都杉並区永福1-9-1 TEL03-5300-1183
本の装い百年展実行委員会:近藤理恵・佐藤真紀・藤井敬子・渡辺和雄