「書物と製本術 ルリユール/綴じの文化史」
野村悠里著 みすず書房 2017年2月刊

現代の日本で(なくても)フランス流の本格的製本を学ぼうとすると、かなりの設備 を持った教室や個人のアトリエに行く事になる。
そして、当然のように折丁をのこぎりで目引きするだろう。背綴じ紐はその目引きでできた穴に埋め込まれて、ほぼ背は平になるだろう。
しかし、それはア・ラ・グレック(ギリシャ風)であり、この場合のギリシャとは東ロー マ帝国(ビザンチン)の事である。実際のビザンチンでは、背綴じ紐は使われず、 コプト綴じ=リンクステッチを洗練し大がかりにした製本方法が、東ローマ帝国滅亡まで行われていた。その外観だけが海を渡って、ヴェネツイアに伝わり、さらにフランスに伝わった。

また、製本を学ぶ人は、練習として「背バンド製本」も作るかも知れない。
その場合も構造はア・ラ・グレックであって、背バンドは後から付けた偽のバンドである。 本書に言うフォー・ネールである。

それ以前の製本は、特に中世製本の修理修復を学ぶ人や、私のように歴史的製本に興味を持つ者しか、実際にやることはないだろう。本書に言うヴレ・ネールであって、折丁はのこぎりでは目引きせず、ナイフなどで切れ目を入れて、背綴じ紐などは背に盛り上がっていた構造だった。

さて、本書は、実際にルリユールを手掛けた日本人が書いた製本の歴史としては、貴田庄著「西洋の書物工房」に続く貴重な書物である。「西洋の書物工房」はより歴史を広く扱っているが、本書はヴレ・ネールからフォー・ネールへ転換した17,18 世紀のフランスでの製本について詳しく述べている。
また組合間の力関係や、ルイ16世の王令による製本の様相にも詳しい。
もちろん表紙の装丁の様式の変遷もカラー頁の紹介だけにとどまらず触れているわけだが、「綴じの文化史」というだけあって、綴じの進化と普及に伴う簡易化を詳しく述べる。19 ~ 20世紀のアールデコ、アール
ヌーボー時代の華やかな製本家の時代というのは、綴じの構造として既に成立していたものを用いただけと言える。

本書は、栃折久美子氏と製本工芸家、そして製本を支える革漉き職人に捧げられている。本書の製本はもはや少数派の糸綴じの本である、またカバーは青本を模していて、シンプルだが、カバーを外すと表紙本体は、ダンテル様式の再現となっている。フランス流の製本を学ぶ人、製本・書物の歴 史を学ぶ人には欠かせない書物となった。

(河本洋一)